女性活躍推進にアンコンシャス・バイアス対処をどう位置付けるのか ~ソフトバンク様事例紹介~

女性活躍推進に
アンコンシャス・バイアス対処をどう位置付けるのか
~ソフトバンク様事例紹介~
人的資本元年と言われた2022年、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(D,E&I)は企業にとって欠かせないテーマとなりました。
本レポートでは「ダイバーシティの一丁目一番地は女性活躍」として明確な目標を設定、女性活躍推進委員会を設置するなど、一歩踏み込んだ取り組みをされているソフトバンク株式会社様の事例をご紹介します。
お話を伺ったのは、ソフトバンク株式会社・コーポレート統括人事本部の木戸あかりさん、中島三絵さんです。
(聞き手:株式会社チェンジウェーブ 上席執行役員 鈴木富貴)

ソフトバンク株式会社
コーポレート統括 人事本部 人事企画統括部 人事企画部
コンペンセーション&ベネフィット課 兼 ダイバーシティ推進課 課長
木戸あかり 様

ソフトバンク株式会社
コーポレート統括 人事本部 人事企画統括部 人事企画部 人事企画課
中島三絵 様
多様な個で強い組織をつくる
イノベーションと成長の源泉は多様性にある
―まず、ダイバーシティ推進を重要な経営課題として位置付けている背景からお聞かせください。
当社はソフトウエアの卸から始まり、企業合併などを繰り返しながらサービスやプロダクトを充実させ、成長してきました。こうした沿革がありますので、未来に向けてさらに新しい挑戦をしていくことが会社の成長に直接つながるという考えは、もともと組織に根付いているように思います。「新規性との融合」や「イノベーション」は、これまでがそうであったように、しかもこれからさらに重要であると位置づけています。
そして、会社としてイノベーションを起こし続けるためには、社員それぞれの違いを理解して個々の強みを生かしながら、自由な発想で議論ができるような風土が必要です。つまり、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンです。
―そのダイバーシティの一歩として、女性活躍推進に取り組まれたのですね。
はい、ダイバーシティの「一丁目一番地」と言われるのが女性活躍推進です。ソフトバンクでは2035年度までに女性管理職比率を20%まで引き上げるという目標を掲げており、この達成に向け、2021年7月には女性活躍推進委員会を発足させました。女性をはじめ、多様な人材が活躍できる企業風土を作り上げるために、さまざまな取り組みを進めています。
会社の成長と人の成長は切り離せない
具体的数値から目標値を設定した
―女性活躍推進委員会について聞かせてください。
「女性活躍推進委員会」は社長(代表取締役 社長執行役員 兼 CEO:宮川潤一氏)自らが委員長を務める委員会です。チェンジウェーブの佐々木裕子社長はじめ、外部の有識者にもアドバイザーとして参加していただいています。役員が集まって議論を重ね、それぞれの組織で取り組みを実践し、進捗を定期的に共有するということをしています。この会議自体が経営陣の本気を示すものですし、「会社の成長と人の成長は切っても切り離せない」ということを表す意義ある取り組みだと感じています。
―各事業統括役員がコミットされていること、女性活躍推進を根幹の経営変革だと捉えられていることが素晴らしいと感じました。
また、各部門の現状がファクトとデータで示されていたことも重要なポイントではないでしょうか。
具体的な数値で確認することはとても大事だと思います。まず、委員会発足にあたって調べたところ、従業員の女性比率よりも管理職の女性比率が低いというギャップが実際に出ていました。これをさらに分析すると、貢献度評価(業績評価)では男女差がほとんど出ていないにも関わらず、等級評価(登用に関わる評価)では男女差があるということがわかりました。登用について、アンコンシャス・バイアスの影響が考えられると思うのですが、このように女性管理職の比率が低くなっている経緯のひとつひとつを見える化できると、目標や打ち手が定めやすくなると思います。
「過去の経験則」が
「現在の選択肢」を狭めないために
外部の力を使って 各組織の課題に迫る
―確かに、登用や評価にはアンコンシャス・バイアスが影響しやすいですし、最も注意が必要なところでもありますね。
一方で「管理職になりたくない女性もいるのではないか」という声もありました。
その背景には、過去の経験則(から作られるアンコンシャス・バイアス)があるのだと思います。上司が女性に対して持つ「女性は管理職になりたがらない」というバイアスもありますし、女性が「管理職=ハードに働くもの」というバイアスから敬遠する、という場合もあると思います。もちろんバイアスは誰にもあるもので、それ自体が悪いものではありませんが、「昔からこうしている」とか「そう言われている」という過去の経験則が新たな違う選択肢を見えなくさせるとしたら、社員個人にも会社にも、もったいないことだと考えています。
また、アンコンシャス・バイアスは、企業風土や働き方、業務内容など様々な事柄が絡み合った複雑なテーマだとも考えています。「悪い」のではなく「理解して対処することが大切」だと伝えることが必要ですが、これについては外部の有識者や専門家に関わってもらう方が、よりアカデミックな知識が得られます。社内の「思い込み」ではない判断ができるのではとも考えており、チェンジウェーブ社に力を貸していただくことにしました。
ソフトバンク様では役員・本部長がANGLE(チェンジウェーブが開発したアンコンシャス・バイアス測定・ ラーニングツール)を受講。その結果を踏まえ、佐々木が女性活躍推進委員会で講話を行いました。 佐々木からは、なぜ企業に多様性が必要なのかというD,E&Iの大前提についてデータを交えて紹介したほか 、ANGLEの結果から見えるソフトバンク各組織のバイアス傾向と課題をお伝えしました。 バイアス傾向は部門ごとに分けて提示(営業/テクノロジー/事業開発・財務・他)。受講データや振り返 りコメントなどをもとに、それが生じたメカニズムについても分析しました。
―参加された役員の方から「女性だけのためでなく、事業変革そのものに関わる」「腰を据えて取り組む必要がある」といった声があがったのが大変印象的でした。
せっかく本部長以上の方々にANGLEを受講してもらったので、一人ひとりの気づきだけではなく、皆さんの気づきにできるといいなと考え、あのような場を設けました。
他社と比べた当社の特徴も分かりましたし、何より部門別のデータが大変参考になりました。会社全体で見ることも大切ですが、組織・職種別の状態、課題を可視化したことで、それぞれにフィットする施策を考えることができるのではないかと思います。
―既に各部門で具体的な取り組みが進んでいると思いますが、今後の展望についてお聞かせください。
女性管理職比率、2035年度20%に対し、1年目の現時点で、目標を少し上回るペースのシミュレーションが出ています。各部門の取組がさらにしっかりと動き出すと、スピードアップできるかもしれないとも思っています。社内から自主的な動きが生まれる雰囲気もあり、前倒しして目標が達成できるかもしれません。そうなったら嬉しいなと思っています。
今はまだ、各社員の半径何メートル以内…というような、小さな変化までは分かりません。しかし、何か一つやって終わり、ということではなく、アンコンシャス・バイアス研修やメンタープログラム、女性部下育成の研修、マネジメント研修など、複数の取り組みを実施すると同時に、女性活躍推進委員会でも検討を重ねるという両輪を動かしています。ここから始めて、いずれ会社の風土という大きなものも変化してゆく未来が来ると考えています。
(2022年10月)