仕事と介護の両立支援が義務化!ガイドラインと制度運用・事例も解説

「仕事と介護の両立支援」は、2025年4月の育児・介護休業法改正により、企業の義務として新たな局面を迎えます。改正内容が複雑で対応に苦慮し、介護離職を防ぐ具体的な施策について頭を悩ませる人事担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、法改正のポイントから、厚生労働省のガイドラインに基づいた運用プロセス、制度設計に役立つツールを解説します。先進企業の成功事例も紹介するので、単なる法令順守にとどまらず、組織の持続的成長につながる体制構築のヒントとしてお役立ていただければ幸いです。
今「仕事と介護の両立支援」が必須の理由

仕事と介護の両立支援が必須の理由は、2025年4月の育児・介護休業法改正による義務化対応と、深刻化する人手不足への対策が急務となっている点にあります。介護離職を防ぎ、持続的な企業成長を実現するために、法対応だけでなく本質的な支援体制の構築が求められているのです。
介護離職は個人の問題から組織の経営リスクへと変化している
介護離職は個人の問題から組織の経営リスクへと変化しています。
長年にわたり、従業員の家族介護は個人的な家庭の問題と捉えられていました。しかし介護の発生は従業員のパフォーマンスを低下させる恐れがあり、企業の業績にも影響を及ぼす恐れがあります。特に従業員一人ひとりの役割が大きい中小企業においては、死活問題にもなりかねません。
介護が原因で熟練した従業員が離職した場合、代替人員の採用が困難なだけでなく貴重なノウハウを失うことにもつながります。企業が生産性低下や人材喪失によるダメージを軽減するためには、介護問題を全社的な課題と捉えるとともに、従業員のライフスタイルを考慮した柔軟な働き方の整備が必須です。
参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
ビジネスケアラー予備軍が増加している
働きながら家族の介護を担うビジネスケアラーが増えている事実も見過ごせません。
近年ビジネスケアラーの数は増加の一途をたどっており、経済産業省の推計によると2030年には全国で約320万人に達すると見込まれています。
特に、親の介護に直面する従業員は企業の中核を担う40代から50代に集中しており、離職や長期休職によって企業に与える影響は計り知れません。当事者が誰にも相談できず、一人で悩みを抱えている場合は突然離職するリスクが高まるため、受け皿となる相談先と介護を話題にしやすい組織風土の醸成が不可欠です。
参考:経済産業省「『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』について」
仕事と介護の両立支援における3つのポイント

本章では育児・介護休業法の改正点をベースに、企業が取り組むべき両立支援の3つのポイントを解説します。
介護離職防止のための雇用環境整備
改正法では、事業主に介護離職を防ぐための雇用環境整備が義務付けられました。企業は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 全従業員を対象とした研修
- 相談窓口の整備(窓口設置など)
- 自社の事例収集と提供
- 制度利用促進の方針周知
時短勤務や残業制限といった両立支援制度があるにもかかわらず、申し出づらい風土があり、制度の利用が進んでいない状況が見受けられます。企業は自社の状況に合う施策を選定し、従業員が気兼ねなく相談できる環境を整備しなければなりません。
個別周知・意向確認の義務化
法改正により、従業員が介護の申し出をした際、事業主は使える制度の情報を個別に知らせ、利用の意向を確かめる義務が生じました。当事者が制度が使えることを知らずに離職してしまう事態を防ぐためです。
当事者へ周知が必要となる主な法定制度は以下の通りです。
| 制度名 | 内容 | 対象者・期間など |
|---|---|---|
| 介護休業 | 要介護状態の家族を介護するために取得できる休業 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割取得可能 |
| 介護休暇 | 年次有給休暇とは別に、介護のために取得できる休暇 | 対象家族1人につき年5日、2人以上で年10日まで。時間単位での取得も可能 |
| 所定外労働の制限 | 残業の免除を申し出られる制度 | 1回の申し出につき1カ月以上1年以内の期間で利用可能 |
| 短時間勤務等の措置 | 1日の所定労働時間の短縮、繰り上げ・繰り下げ、フレックスタイム制の利用ができる制度 | 対象家族1人につき、利用開始から3年以上の期間で2回以上利用可能 |
| 介護休業給付金 | 介護休業中に雇用保険から支給される給付金 | 休業開始時賃金の67%が支給される |
※企業により導入している制度は異なり、対象となる従業員の要件(雇用形態など)にも留意する必要があります。
意向確認の方法は面談のほか、書面交付や労働者が希望すればメールでも対応可能です。制度の利用を抑制することを目的とした周知・意向確認を行うことは認められていません。
介護に直面する前の早い段階での情報提供
介護に直面する前の早い段階での情報提供も、新たな義務として追加されました。日頃多忙で介護対策が後回しになりがちな従業員に対し、以下のいずれかのタイミングで企業の両立支援制度や公的な介護保険制度の情報をプッシュ型で通知します。
- 40歳の誕生日前日の属する年度
- 40歳の誕生日から1年間
制度説明だけでなく、企業独自の運用ルールや規定、サポート体制についても説明しましょう。突然介護が発生した際、すぐに制度へアクセスできるための情報が必要です。
仕事と介護の両立支援を実現するための運用プロセス

厚生労働省は、企業が介護支援に取り組むための手順を示した「介護離職を予防・防止するための対応モデル」を公開しています。以下の各ステップを参考に、自社の状況に合わせた運用プロセスを組み立てましょう。
なお、参考資料の巻末には、実態把握のための社内アンケートひな形や、個別の支援プラン作成に役立つ様式などのツールも充実しています。
ステップ1. 実態把握|社内アンケート・実態調査
まずは社内の現状を知ることから始めましょう。匿名の社内アンケート調査やヒアリングを実施し、従業員の年齢構成や家族構成、現在介護を行っている人の有無、将来的な不安などを把握してください。
実態が見えないまま制度だけを整備しても、現場のニーズとかけ離れた形骸的なルールとなり、利用が進まないおそれがあります。定量的なデータと従業員の生の声を集積すれば、優先的に取り組むべき課題が見えてきます。
ステップ2. 制度設計|自社規模・業種に適した制度の制定
次に、把握した実態をベースに自社の規模や業種、従業員のニーズに合った両立支援制度を設計します。
まずは、育児・介護休業法に定められた法定制度を就業規則に盛り込みましょう。続いて、先進事例も参考にしながらテレワークやフレックスタイム制、社内休暇制度といった独自の施策を検討します。
また、いつ誰が当事者になっても業務が円滑に進むよう、属人性を排除する業務フローの見直しをセットで進めることも大切です。介護は育児と異なり、突発的で期間も予測しにくいためです。
ステップ3. 周知・意向確認|介護に直面する前の情報提供
制度を整備した後は、全従業員に対してその内容を周知します。社内ポータルサイトへの掲載や説明会の実施と並行して、具体的なフローを定めておくことも大切です。
また、制度の浸透には管理職への研修も欠かせません。部下から介護の相談を受けた際に管理職が適切に対応できなければ、部下が制度の利用を躊躇してしまうためです。すべての従業員が介護を自分ごととして捉えることで、制度を利用しやすい風土が生まれます。
ステップ4. 両立支援|介護に直面した後の具体的支援
実際に従業員が介護に直面した際には、個別の状況に応じた具体的な支援を行います。
相談窓口や上司が面談を行い、本人の希望や介護の実態を確認した上で、利用できる制度を説明し、休業期間や復帰後の働き方などを盛り込んだ介護支援プランを策定してください。
改正法で義務化された個別周知・意向確認の手順に従って対処し、経緯を記録として残しましょう。当事者は精神的に追い詰められることも多いため、孤立させないサポート体制を敷くことも大切です。
ステップ5. 継続的な働き方改革|働きやすく休みやすい職場環境に
制度運用を開始したら、制度の利用状況や従業員からのフィードバックを定期的に収集し、必要に応じて見直しながらPDCAサイクルを回しましょう。
また、誰かが休んでも業務が滞らないよう、チーム内での情報共有や多能工化を進め、相互に支え合う職場風土を醸成することも重要です。働きやすく休みやすい職場環境は、介護以外の事情を抱える従業員のエンゲージメントも高め、組織基盤の強化に貢献します。
仕事と介護の両立支援に活用できる厚生労働省のツール

仕事と介護の両立支援における制度設計や運用には、厚生労働省や経済産業省などの公的機関が公開している以下のツール(ガイドライン、面談シート、社内アンケート雛形)が役立ちます。
1.経営者向けガイドライン:社内の共通ルール作りの規範とする
経済産業省の「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」は、企業が取り組むべき事項を体系的にまとめたものです。経営層がコミットすべき理由や、具体的な取り組みステップが網羅されており、社内ルールの策定に役立ちます。
自社の取り組みレベルを把握する指標としても活用し、組織全体で両立支援の方向性を統一しましょう。
2.面談シート:管理職の対応を標準化する
厚生労働省の「面談シート(仕事と介護の両立支援面談シート兼介護支援プラン)」は、管理職が従業員をヒアリングする際の質問事項をまとめたツールです。介護の状況や本人の希望など、確認すべき項目が網羅されているため質問漏れを防ぎ、集計も容易になります。
法改正で義務化された個別周知・意向確認の現場運用において、管理職の負担を軽減しながら適切な記録を残すために活用が可能です。
3.社内アンケート:従業員の介護リスクと実態を可視化する
厚生労働省が提供する「仕事と介護の両立実態把握アンケート(匿名)」を利用すると、社内の介護リスクを効率的に収集できます。従業員の年齢構成や家族状況に加え、現在介護中か、将来の不安はあるかといった実態も把握が可能です。
社内アンケートの雛型を自社向けにカスタマイズして利用することで、潜在的なビジネスケアラーと予備軍を可視化でき、データに基づいた制度設計に役立てることができます。
企業が仕事と介護の両立支援に取り組むメリット

仕事と介護の両立支援の取り組みは法令順守にとどまらず、企業に以下のメリットももたらします。
人材の流出防止と有効活用
企業が両立支援に取り組む最大のメリットは、経験豊富な中核人材の離職を防げることです。
介護に直面するのは一般的に業務経験豊富な40代から50代の中核的な人材です。両立支援制度を整えれば、彼らが長年培ってきたスキルやノウハウを社内に留保できます。
また、欠員補充にかかる採用コストや育成期間を削減できる点も大きな利点です。熟練の従業員が安心して能力を発揮し続ける環境では、組織力が維持・強化されることが期待できます。
従業員のモチベーションの維持・向上
会社が従業員一人ひとりのライフプランに寄り添うという安心感は、モチベーションやエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高めます。
将来への不安が解消されれば、従業員は目の前の業務に集中でき、結果としてパフォーマンスも向上することが期待できるでしょう。会社が従業員の生活を大切にする姿勢を示すことで、各自の帰属意識が強まりポジティブな組織文化が芽生えます。
企業のブランドイメージ向上
両立支援に積極的な姿勢は、SDGsやESG経営の観点から企業の社会的評価を高め、ブランドイメージの向上につながります。
特に、就職活動を行う学生や転職希望者にとって、福利厚生の充実度は企業選びの重要な判断基準です。優れた両立支援制度は採用活動における強力なアピールポイントとなり、優秀な人材の獲得と長期的な企業価値の向上にも貢献します。
仕事と介護の両立支援:企業の取り組み事例

先進的な企業の多くは法定基準以外にも独自の両立支援策を導入し、従業員の満足度向上と生産性の維持を両立させています。
本章では、仕事と介護の両立支援における企業の先進的な取り組み事例を紹介します。自社で制度を設計する際のヒントとしてご活用ください。
オムロン株式会社:コミュニティ形成で制度を使える組織風土に
オムロン株式会社では両立支援制度の利用が進まない現状に対し、まず風土改革から着手しました。
具体的には、社内アンケートで見えない介護リスクを可視化した上で、当事者が悩みを共有できるコミュニティや座談会を実施し、制度の利用を促進しています。同じ境遇の社員同士がつながる場を設けることで、心理的安全性を確保でき、従業員が気兼ねなく制度を利用できる組織風土を作り上げました。
結果として介護離職の防止だけでなく、多様な働き方を認める文化が根付き始めています。
参考:LACT導入事例「【企業事例】見えにくい課題を可視化し、実効性ある施策で「両立」を根づかせる-オムロン株式会社- 」
株式会社日立製作所:情報・経済・働き方・マネジメントのトータルパッケージ施策
株式会社日立製作所は、情報提供・経済的支援・働き方改革・マネジメント改革の4つを軸としたトータルパッケージで支援を展開しています。
具体的には、外部専門家による介護コンシェルジュの設置や、全管理職を対象としたeラーニングの実施、従業員の実態やリスクを可視化するツールの導入で、個々の状況に合わせたきめ細かなサポートを実現しました。
さらに、40歳以上の従業員に対するハンドブック配布をはじめ、介護に直面する前のプッシュ型情報提供を徹底し、従業員が自律的に両立マネジメントを行える仕組みを構築しています。
参考:株式会社チェンジウェーブグループ「【リクシスインタビュー】仕事と介護の両立実現には、トータルパッケージでの支援と管理職のリテラシー向上が不可欠 ―日立製作所様の「仕事と介護の両立支援」―」
ハウス食品グループ本社株式会社:セルフチェック浸透で介護が自分ごとに
ハウス食品グループ本社株式会社では、全従業員を対象としたセルフチェックを実施し、介護を自分ごと化する取り組みを進めています。そして3か年計画を策定し、「知る・行動する・組織浸透」と段階的にリテラシーの向上を図りました。
実態把握データに基づき経営層がコミットすることで、介護を隠さずに相談できるオープンな風土が醸成されました。従業員の将来不安が軽減された結果、自ら道を選ぶキャリア自律も進んでいます。
参考:LACT導入事例「【イベント報告】ハウス食品グループ様経営共有会で取締役・酒井が講演を行いました」
仕事と介護の両立を支える国の助成金制度

仕事と介護の両立支援に関する企業の費用負担を軽減し、制度導入を円滑化するために、厚生労働省では以下の助成金制度を用意しています。
| 助成金名 | 概要 | 主な支給額(中小企業の場合) |
|---|---|---|
| 両立支援等助成金(介護離職防止支援コース) | 従業員の円滑な介護休業取得や職場復帰を支援する計画を策定・導入し、実績が出た場合に支給 | ・介護休業取得時:30万円 ・職場復帰時:30万円 ・代替要員確保時:20万円 |
| 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース) | 介護福祉機器の導入や、働きながら介護を行う労働者のための雇用管理制度を導入した場合に支給 | 導入した制度に応じて定額を支給 |
| 業務改善助成金 | 生産性向上のための設備投資(例:テレワーク機器)を行い、事業場内最低賃金を引き上げた場合に支給 | 設備投資費用の一部と賃金引上げ額に応じて支給 |
※各助成金の支給額や詳細な要件は年度によって変更される場合があります。また、対象となる従業員が規定されている場合もあるので、申請の際は厚生労働省の最新情報をご確認ください。
まとめ:仕事と介護の両立支援はチェンジウェーブグループで

2025年の育児・介護休業法改正は誰もが安心して働ける企業へと変わる絶好の機会です。しかし、制度設計だけで使える仕組みとして定着させることは容易ではありません。
チェンジウェーブグループは、隠れた介護リスクを可視化するクラウドシステム「LCAT」をはじめ、管理職向け研修や専門相談窓口の設置など、組織変革に必要なソリューションをワンストップで提供します。
法対応のその先にある、誰もが安心して能力を発揮できる組織風土を共に築きましょう。実態把握から運用定着まで、まずは貴社の課題をお聞かせください。