全社を巻き込む施策設計で、介護をキャリアの制約にしない風土を作る 中外製薬株式会社様(前編)

中外製薬株式会社
人事部DE&I推進グループマネジャー 佐藤 華英子 様
中外製薬株式会社の、2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」では、高い目標を掲げ挑戦し続けていますが、その実行の主体は「社員」であり、戦略実現に向けては、多様な人財が最大限の力を発揮できることが不可欠であると考え「DE&I」を積極的に推進しています。その一環として、仕事と介護の両立支援にも取り組んでいますが、単に福利厚生という視点ではなく「人財マネジメントの重要課題」として取り組んできました。全社を巻き込む施策設計のポイントとデータの活用方法について、人事部DE&I推進グループマネジャーの佐藤様にお話を伺いました。
1.「点」から「線」へ:3年ごとの実態把握を軸とした継続的支援
――中外製薬様では、2021年から継続的に仕事と介護の両立支援を推進されています。それ以前の取り組み状況はいかがでしたか。
佐藤様:当社のダイバーシティへの取り組みは2010年頃から始まっており、2012年にも全社的な介護実態調査を実施しています。当時は情報サイトの立ち上げやセミナーを行いましたが、「女性活躍推進」が最優先課題であったこともあり、介護支援については継続的な施策にまで至りませんでした。
――当時は「点」としての施策に留まっていたということですね。そこからどう変化したのでしょうか。
佐藤様:会社の戦略実現に向けて、より「多様な人財の活躍」が不可欠となる中、2021年、DE&Iの一環として改めて、社会的な介護課題の深刻化や、社内の年齢構成の変化などが看過できない組織的な課題となりました。そこで、継続的な支援を実現するために「3年に1度は必ず実態把握を行う」と決め、施策を「点」ではなく「線」として捉え、持続的な支援体制へ舵を切ったことが転換点となりました。
2.介護を「キャリアの制約」にしないためのリテラシー向上
――支援の柱として「全社員のリテラシー向上」を掲げられた理由を教えてください。
佐藤様:労働組合からも「制度を充実させてほしい」「相談先がほしい」「知識習得の機会が欲しい」といった声が上がっていました。介護は個別性が非常に高く、単に休暇制度を拡充するだけでは解決しません。最も避けるべきは、知識がないまま突然の介護に直面し、混乱の中で不本意な選択をしてしまうことです。まずは「いかに両立体制を構築するか」というリテラシーを早期に習得することが、社員の安心感を生み、組織運営上のリスクヘッジに直結すると考えました。
――両立支援を「DE&I」推進の中に明確に位置づけていらっしゃいますね。
佐藤様:はい。当社の戦略実現には、多様な専門性を持つ人財が活躍し続ける「インクルーシブな文化」が不可欠です。介護支援を単なる「配慮」ではなく、戦略実現に不可欠な「人財マネジメントの重要課題」とし、全社員・全マネジャーを巻き込む設計にこだわりました。
3.鍵は施策展開の順序(ストーリー):マネジャー起点の4ステップ
――全社展開にあたって、特に意識されたことはありますか。
佐藤様:最も重視したのは、施策を展開する「順序(ストーリー)」です。唐突に全社員へ広げるのではなく、段階を踏んで理解の土壌を醸成していきました。

【中外製薬が実践した4つのステップ】
Step 1:メッセージの発信
まずは組織長に対し、会社が介護支援に取り組む意義を明確に伝達。
Step 2:マネジャー層への先行展開
支援のキーパーソンとなるマネジャーに、セミナーとLCATの受講を先行実施。「自身もリテラシーが不足している」といった自覚もうまれ、介護施策の展開の必要性を理解。
Step 3:全社員への展開
マネジャーの理解が得られた段階で、全社員へLCATとセミナーを実施。上司が内容を理解しているため、マネジャーから部下への受講推奨につながり、円滑な全社展開が可能に。
Step 4:情報提供
両立支援セミナーで寄せられた切実な悩みや具体的なQ&Aを、専門家の回答とともにイントラで公開。知見をナレッジ化するとともに、個別相談窓口を設置。
―マネジャー層を「先に」巻き込むことで、全社的な納得感を高めたのですね。
佐藤様:はい。マネジャーが「自分事」として捉えてくれたことで、やらされ感ではなく、組織に必要な「備え」として浸透していったと感じています。
前編では、ストーリーのある両立支援の施策展開についてお話いただきました。
続いて、後編では、実態把握のデータの活用と経年で見えてきた変化についてご紹介します。