経営人材は「育ったら任せる」ではなく「任せて育てる」。サクセッション設計4つのポイント

企業の変革にはさまざまな切り口がありますが、変革の成否を大きく左右するのは、経営を担う人たちの顔ぶれです。次の経営者を誰にするのか。パイプラインとして若手リーダーをどう選び、どこまで、どれくらいの速さで育てるのか。
サクセッションプランニングの重要性は強く認識されるようになりました。それでも、候補者リストはあっても育成や登用とつながっていない、人材要件があいまいなまま、という企業はまだ少なくありません。
私たちチェンジウェーブグループは、600社を超える企業の変革に伴走させていただく中で、この課題に向き合い続けてきました。本コラムでは、サクセッションプランニングとはなにか、どこから始めるのか、お伝えしたいと思います。
経営力を育てる「打席」
経営者の仕事は、日々の業務を回すマネジメントとは性質が違います。市場の構造を中長期で読んでビジョンを示し、競合に勝てる次の事業を描く。既存事業をやめる判断も含めて、事業ポートフォリオを組み替える。そのうえで戦略を数字と実行に落とし込み、多くの人を動かして企業価値を高める。それを担う組織の設計まで含まれます。マネジャーとして経験を積んだ先に自然と経営者が見えてくるわけではありません。

こうした力は、経験の幅と量で培われます。経営者になる人の多くは、損益責任を負う打席に、それも複数の事業で立ってきています。一つの事業だけでは、経営に共通する型を体感しにくいからです。近年は、海外の異なる市場や文化の中で意思決定した経験や、多くの関係者を巻き込まなければ進まない複雑な案件、いわゆる修羅場の経験も重視されるようになりました。
ただ、こうした打席は社内にそう多くありません。限られた打席を、誰に、どのタイミングで渡し、経営者に育てていくか。サクセッションプランニングとは、誰を選ぶかではなく、誰にどんな経験をどれだけ配るかを描くロードマップです。
実際、社長候補にタフアサインメントを実施しているプライム上場企業13社を見ると、92%が未経験領域への異動を、54%が海外現地法人などでの経営またはそれに準じる経験を与えています。一方で、近年重視されつつある新規事業の創出(15%)や不採算事業の改革・整理(8%)を経験させている企業は、まだ一部にとどまります。

日本の後継者候補に足りないのは「経験の量」
計画的に候補者を育て、選ぶ仕組みを整え、それらを一連で実行できている企業はまだ多くありません。プライム上場76社への調査では、サクセッションの課題として最も多かったのが、役員の人材要件が曖昧であること(71%)でした。社長ポジションで後継者計画のロードマップを立案済みの企業は30%、登用判断のための評価まで実施できている企業は21%です。
裏を返せば、多くの企業にはまだ手を打つ余地が残っています。
例えば、候補者に提供する経験の量です。
経験の量が実力の差になることは、データにも表れています。経営幹部を対象としたエゴンゼンダーの分析では「非常に好奇心が強い」と評価した幹部20名を比べたところ、高いコンピテンシー評価に至った10名は、そうでない10名よりも、他社での勤務、多様な顧客の担当、海外勤務、より多くの事業局面、より大きなチームを率いた経験を積んでいました。同じように高い好奇心を持っていたとしても、与えられた機会で差がつく、ということを表しています。
また、2018年時点の国別の分析では、日本の幹部は6カ国の中で好奇心のスコアが最も高い一方、コンピテンシーはそれに見合う水準に届いていませんでした。大きな職務異動を阻む文化的な規範が、一因と指摘されています。

(出典:Claudio Fernández-Aráoz, Andrew Roscoe, Kentaro Aramaki, “From Curious to Competent,” Harvard Business Review, September–October 2018。Egon Zehnderのデータベースに基づく分析。対象6カ国は、統計的に有意なサンプル数が確保できた国)
日米のキャリアを並べると、その理由が見えてきます。トップの就任年齢は米国54.4歳、日本56.5歳と、2年ほどしか違いません。ところが日本は課長・部長への昇進が遅く、初めて損益責任を負うのは50代に入ってからです。米国より約10年遅いと推定されます。トップに就くまでに事業経営を担う期間は、米国の11〜14年に対して日本は4〜6年と、約3分の1です。腕を磨き、経験則を蓄える時間が、日本の候補者には構造的に足りていません。
裏返せば、サクセッションプランの設計によって、結果が大きく変わる可能性があるということです。
サクセッション設計のポイント

ポイント1 15〜20年の逆算
50代半ばで経営層に就ける状態になることを想定して、逆算してみます。その手前では、事業ラインの長を数年務めていることが多いでしょう。となると、40代には事業部長として、少なくともサブ事業の損益責任を負い、修羅場もくぐっていてほしいところです。
ただ、いきなり事業部長を任せるわけにはいかないので、30代後半の課長・部長の時期に、難度が高く経営に近い仕事、いわゆるホットジョブを経験させる必要があります。そうなると、20代後半から30代前半には「この人ではないか」という候補に目星をつけておかなければなりません。
経営人材育成の対象として実際に多いのは30代半ばですが、最適な時期を考えると30代半ば、遅くても40代前半までと考えてよいかもしれません。もちろん事業環境等によって異なることはありますが、経営に近い経験がないまま50代を迎えると、残り数年での促成栽培にならざるを得ません。サクセッションは15〜20年がかりの計として考えておく必要があります。
ポイント2 「育ったら任せる」ではなく「”任せて”育てる」
ホットジョブや修羅場を任せることは、それ自体が抜擢です。育つのを待ってから抜擢しようとすると、ずいぶん待つことになります。マネジメントの延長線上に経営がない以上、自然体では経営人材は育ちません。ポテンシャルを見て、多少背伸びに見えても、複雑な仕事や経営に近い仕事を早めに任せる。覚悟がある人に経験させるのではなく、経験させるから覚悟が決まる、という順番です。
とはいえ、実際の経営ポストを任せるのはリスクが大きいという懸念もあるでしょう。その場合に有効なのが、実務に近い経営の疑似体験です。30代半ばの人材に事業本部長になったつもりで経営課題に向き合ってもらうと、扱う情報量も思考の水準も一段変わります。負荷は小さくありませんが、経営を担う覚悟を固める、という点で有効な手段です。
手前味噌で恐縮ですが、当社チェンジウェーブグループの経営幹部育成プログラム「GET」では、参加者に、現在の1階層から2階層上の役職者になったと想定して経営課題に取り組んでもらいます。疑似体験であっても、いざ経営課題に取り組むと、扱う情報量も考える中身もそれまでとはまるで違います。負荷は大きいものの、半年ほど経つと「覚悟が決まる」変化が多くの参加者に見られます。

プログラム受講前に経営との接点がそれほどなかった方の場合、受講前後の自己評価(5段階)では、「枠を壊してやってみようとする挑戦力」が2.54から3.68に、「筋と数字で考える力」が2.22から3.03に伸びました。期待を伝え、任せてみると、経営者に向かって育っていきます。
ポイント3 戦略から逆算する人材要件
早期選抜のためには、人材要件が欠かせませんが、最終的に目指してほしい要件と、候補者を選ぶときの要件は別物です。選抜する時点では、候補者はまだ目指す姿に達していないのが通常だからです。、ただ、いずれも曖昧なままになっている企業が多いのが実情です。
目指す要件は、次の時代の事業戦略から逆算します。今選ぶ候補者は次の時代の経営者で、その戦略は今の延長線上にないかもしれないからです。構造改革が必要なら構造改革を担えるリーダーが、AIで事業の前提を変えるならAIを使いこなせるリーダーが要ります。

基準を言語化しないまま選ぶと、現場での業績が高い人、経営陣の近くで働いている人、上昇志向が強い人、今の上層部とタイプが似ている人が、自然と挙がってきます。いずれも「今の事業を回す力」を指標とした結果で、「これからの経営を担う資質」とは別のものです。経営陣と議論を詰めるべきなのは、これからの事業成長を牽引する経営者に何が必要か、そしてそのポテンシャルを何で見極めるか、の2点です。
ポテンシャルはスキルや経験の物差しでは測りにくいため、胆力、好奇心、やり切る力、自分の世界を持っているかといった観点で選ぶ企業もあれば、外部アセスメントを使う企業もあります。
仕組みによって、選抜される人材が変わった例もあります。ある企業では、本部主導だった候補者の選抜を事業ラインに任せたところ、執行型の候補者が増え、次の事業のアジェンダを自ら設定できる候補者が減りました。そこで、この企業は選抜を本部主導に戻し、見極めの偏りを抑えるため第三者のアセスメントを取り入れています。。
別の企業では、経営陣全員で今後10〜15年の事業ポートフォリオを議論したところ、大きな変革が避けられないという結論に至りました。そこで「変革力」と「影響力」を軸に経営人材要件をゼロから定義し直し、これに合わせて評価基準と登用基準も改めています。

要件を明確にすると、これまでは候補に挙がらなかった人が見えてくることがあります。変革力を軸に据えたら、既存のやり方に異を唱える若手や、扱いにくいと見られてきた人が浮上した、といった例です。その人材をどう伸ばすかは、経営の力量が問われるところです。変革期に管理職の人材要件を明文化し、「これまでのリーダー像」に縛られないようにしたことで、候補者数が男性で1.4倍、女性で1.7倍に増えた企業もあります。
ポイント4 時間軸とポートフォリオ
経営はチーム戦で、サクセッションは長期戦です。多くの企業は、就任までの時間軸で候補者を少なくとも3つの層に分けています。

次期経営チームの候補者となる層について、サクセッションがうまくいっている企業ほど、3〜4年前から本人たちに通達しています。実際に組閣してもらい、次の中期経営計画を考えさせ、テストランを重ねる。社員も数年前から、次の経営陣が誰かを自然と知っています。テストランがうまくいけば、そのまま交代へ移ります。こうした時間軸で動いているため、経営者は、自分の就任初日から次の経営陣の検討を始めていると言われるほどです。
次に、5〜8年先に経営を担う本部長・部長クラスでは、人材の組み合わせが鍵になります。同質な人ばかりでは、イノベーションは生まれにくいものです。多様な個性を持つ人材をどう組み合わせ、事業ポートフォリオの重要な責任をどう分担させるかを考えます。
さらに、10年先以降を見据える層では、候補者層の厚みと多様性を意識して人材プールを形成します。その中でホットジョブなどの機会を与え、次の候補を見極めていきます。
経営者が決め、人事が動かし続ける
誰が経営を担うかで、企業のパフォーマンスは大きく変わります。将来の経営を担う人材を見きわめ最終的に誰に託すかを決めることは経営者にしかできません。サクセッションは経営者の最も重要な仕事の一つです。
米国のCEOは、自分の時間の約25%を自社のリーダー層の育成と関係構築に充てているとされます。着任したばかりのCEOが「自分を超えていく経営者を今から見出して育てることこそ自分の仕事だ」と語った例もあります。

経営者が担うのは、決めること、示すこと、向き合うことです。将来必要な重要ポストを決め、求める人材の水準を示し、候補者に機会とフィードバックを与える。ときには「次はあなただ」と本人に伝え、最後に任用を決断する。その設計は、経営力そのものを左右し、会社を動かす基本の仕組み、いわば経営OSの根幹にあたります。
一方、人事部門が担うのは、その判断を支え、議論を動かし続けることです。将来のポストと人材を可視化し、候補者のプールを広げ、選抜にバイアスがかからないよう働きかける。データを示し、必要なら育成の時間軸を早めるよう提言する。どれくらいの時間が必要で、どんな要件を、いつまでに決めるべきか。その準備は、人事の重要な役割です。
限られた打席を、誰に、いつ、どれだけ渡すか。経営が決め、人事が動かし続ける。その両輪で次の経営チームをつくっていくのがサクセッションです。
出典
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「『サクセッションプラン』に関するサーベイ結果(2023年度)」。タフアサインメントは社長候補への実施企業(プライム13社)の内訳、課題と実施状況はプライム上場76社の回答。いずれも複数回答
- Egon Zehnderのデータベースに基づく分析。対象6カ国は、統計的に有意なサンプル数が確保できた国
- リクルートワークス研究所「五カ国マネジャー調査」(2014)、Spencer Stuart「2025 S&P1500 CEO Transitions」(2026)、日本経済新聞社長交代調査(2021年上期)。初めて損益責任を負う年齢はチェンジウェーブグループによる推定値。調査年・母集団・職位の定義が異なるため、傾向の把握を目的とする
- チェンジウェーブグループ「GET」第1期・第3期受講生の自己評価
- Spencer Stuart「The CFO’s Last Mile」(2022年6月)【要確認:レポート名と表の対応】
- チェンジウェーブグループ「ANGLE Plus」調査・分析(n=566)【要確認:調査時期・対象】
- Michael E. Porter & Nitin Nohria, Harvard Business Review, 2018
ご案内
チェンジウェーブグループは17年にわたり、経営人材と次世代リーダーの育成に伴走してきました。支援した経営幹部は500名以上、女性リーダーは2,000名以上にのぼります。幹部要件の再定義、候補者の選抜・見立ての支援、実践型次世代経営人材育成プログラム、女性リーダーの登用まで、現状・課題感・時間軸に合わせてご提案し、実行をご支援しています。
サクセッションプランをこれから整えたい、今の仕組みが育成や登用につながっていない、人材要件を戦略から見直したい。そうした段階ごとの課題について、まずは現状をお聞かせください。
監修者
株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長 CEO
佐々木 裕子
日本銀行を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーで同社アソシエイトパートナーを務める。2009年株式会社チェンジウェーブを立ち上げ、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。変革実現のサポートや変革リーダー育成、個人や組織、社会変革を担いつつ、複数大手企業のダイバーシティ推進委員会有識者委員にも就任。
ソフトバンク株式会社 社外取締役、三井住友DSアセットマネジメント株式会社 社外取締役、一般社団法人人的資本経営推進協会 代表理事。著書に『実践型クリティカルシンキング』『21世紀を生き抜く3+1の力』。