「変革」を現場に根づかせる ハウス食品グループが手にした変革の型 5年間の実践

ハウス食品グループ本社株式会社 代表取締役専務 大澤善行氏 ×
株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長 佐々木裕子
「クオリティ企業への変革」を掲げるハウス食品グループは、2021年から5年間、社員が組織に根づいた「当たり前」を問い直し、変革に挑むプロジェクトに取り組んできた。
そこで得られたのは、社員の意識変化だけではない。問いを立て、真の課題を捉え、小さく行動し、組織のキーマンを動かす。一連の実践を通じて、「変革の型」を身につけていった。その型は今、同社の構造改革に向き合うための土台にもなろうとしている。
プロジェクトのオーナーとして立ち上げから関わってきたハウス食品グループ本社・代表取締役専務の大澤善行氏と、企画・伴走を担ったチェンジウェーブグループ代表・佐々木裕子が、組織文化を変えるために必要なこと、そして変革を実装するための要諦を語り合った。
インタビュイー

大澤善行 氏
ハウス食品グループ本社株式会社
代表取締役専務
※所属・肩書は取材当時
インタビュワー

佐々木 裕子
株式会社チェンジウェーブグループ
代表取締役社長 CEO
経営テーマとしての「変革」を、日々の行動に置き換える
ハウス食品グループでは、中期経営計画を3年単位で策定し、その3年を2つ合わせた6年の時間軸で経営を進めてきた。かつて大きなテーマとして掲げていたのは「選択と集中」である。
しかし、選択と集中が成り立つのは、中核となるコア事業が盤石であり、そこに経営資源を集中できるという前提があってこそだ。時代が大きく変わる中で、自分たちにとってのコア事業は、将来にわたってもコアであり続けられるのか。その問いから、中期経営計画のテーマは「選択と集中」から「変革」へと置き換えられた。打ち出されたのが、「クオリティ企業への変革」。自ら価値を生み出す企業へ変わっていくという経営テーマだった。

大澤 善行 氏:
(以下、大澤)
企業全体として変革に取り組み、社員もそういう視点で自らの仕事を見直す。それを企業に根づかせることには、やはり大変さがあります。経営者が旗を振ることは必要ですが、それだけでは根づかないと思うんですね。
製造業は、日々の改善を積み重ねて競争力を高めてきた。ハウス食品グループでも「改善」はこれまでも徹底して行われ、現場の行動として定着している。だが、既存の前提そのものを問い直す「変革」には、改善とは異なるアプローチが必要だった。
大澤:
変革を口にすると、最初に皆が言うのは「意識を変えなければいけない」です。
ただ、それは落とし穴だと思います。「意識変革」と念仏のように唱えるだけで意識が変わるなら、こんなに簡単なことはありません。最終的に意識を変えることは重要ですが、そのために必要なのは行動を変えることです。
そんな問題意識を持っていた大澤氏に、佐々木が紹介したのが「当たり前をぶっ壊せ」という取り組みだった。
大澤:
その言葉が、ぱん、と非常に響いたんですね。意識変革と言うだけでは何も変わらない。実際の行動に置き換えていかなければならない。私たちが日常的に考え、習慣化している「当たり前」の中にこそ、本来、変革しなければいけない種があるわけです。本質をダイレクトに表していると感じましたし、「やってみたい」と思いました。
すでに出来上がっているものを、ただ否定するのではない。疑いを持って見直し、行動によって確かめる。「当たり前をぶっ壊せ」という言葉は、変革を抽象的なスローガンから実践へ移す起点になった。
佐々木 裕子:
(以下、佐々木)
変革屋として17年活動する中で、いくつか確信していることがあります。まず、中の人が「変えたい」と思うことでなければ、組織は変わらない。そして、目に見える変化を短期に、行動で示すことが必要です。私たちは、その一歩目をお手伝いする役です。自社の中にいると気づきにくい「当たり前」や、無意識に行動を制限しているバイアスを客観視するための壁打ち役としても伴走しています。

変革の実証実験は、答えがないところから始まった。
実はプロジェクトのスタート時点で、「何を変えるのか」という明確な設計図があったわけではない。まず考えたのは、変革という曖昧なテーマを、どのような形で動かし始めるかだった。
大澤:
最初から「何を変えたいか」が明確にあったわけではありません。私たちが「変える」ということに取り組もうとしたとき、どのような形でスタートさせるのがよいかを、まず考えました。
そこで鍵になったのが「実証実験」という言葉だった。「これを変える」と宣言すれば、現場に身構えや反発が生まれることもある。しかし、「まず小さく試してみる」と位置づければ、動き出せる。失敗を恐れず、結果から学び、次の行動を変えることもできる。
5年間、毎年メンバーが入れ替わりながら重ねてきた取り組みは、社員が変革に挑む実証実験であると同時に、経営にとっても「組織はどうすれば変わり始めるのか」を学ぶ実証実験だった。

※初年度の様子は、「『アタリマエをぶち壊す』変革の仕掛け ~ハウス食品グループ様事例紹介~」(2022年3月公開)で紹介しています。
5年間で見えてきた、変革の型・3つの要諦
この5年間の意味は、個々の実証実験を成功させることだけではなかった。大澤氏は、自らが責任者としてプロジェクトに関わる中で、企業が変革を進めるための「基本の型」を学ぶことに本質的な価値があったと振り返る。
大澤:
一つひとつの変革テーマを実行することだけが、この取り組みの意味ではありません。参加者が実証実験を繰り返す中で、私自身も、企業を変えていくための基本の型を学びました。その型を組織の中に定着させ、次の行動に応用できるようにする。そこに本来的な意味があったと思います。
個々に生まれた気づきを個人の中で終わらせず、抽象化・一般化して型にする。そして、もう一度、具体的な場面に応用する。具体から抽象へ、そしてまた具体へ、という往復を、私たち自身がこのプロジェクトで学びました。
5年間の実践から見えてきた変革の要諦を、大澤氏は大きく3つに整理した。
1 「当たり前」を問い、真の課題を捉える
出発点は、「自分たちの職場にある当たり前とは何か」を問うことだった。それを壊した先に、どのような新しい当たり前をつくりたいのか。答えを探す前に、まず問いを立てる。
大澤:
私たちは日常的に、常に正解を求めることを要求されています。そのため、課題や問いを立てることよりも、答え探しに奔走しがちです。しかし、それでは真の課題にはたどり着かない。結局、8割方は「課題を正しく把握できるかどうか」なのだと思います。これは、当初からずっと教えていただいていたことです。
ただし、本質的な課題を射抜くには、一定のスキルも必要になる。そこで、実践型クリティカルシンキングや内省の手法を取り入れ、「前提を疑い、問いを立てる」ためのスキルも磨いていった。
2 多様な視点で、本質課題に迫る
当初、大澤氏は、営業なら営業、生産なら生産と、同じ課題を共有する者同士を集めた方が議論は深まると考えていた。しかし、実際には逆だった。
大澤:
同じテーマの実務にどっぷり浸かっている人たちは、「そんなことは最初から無理だ」と思ってしまう。「それはできないから、別の方法で」となりやすく、本来の「当たり前をぶっ壊せ」という動きにはなりませんでした。
一方、多様な部署から集まったチームは、互いに前提が違うので、問題を多方面から見つめることになる。見ていて面白い、核心に迫っていると感じられるものは、むしろ多様なチームから生まれていました。
多様な視点の力を実感できた一方で、その難しさを象徴する出来事もあった。
大澤:
多様な部署のメンバーが集まったチームでは、1つの実証実験に絞り込んでいく過程で苦労をします。なかなか議論もかみ合わない。やっと共通の課題を見つけ、結論を出そうとしたら、またうまくいかない。認識は合っているはずなのに、と改めて話し合ったところ、「私たちは何一つ、本質課題を共通認識していなかった」と気づいたそうです。「取り組むべき本質課題は何か?」と気づいた瞬間、急に次の突破口が開けた。そういうチームが、この5年間の中にいくつかありました。
ハウス食品グループでは「ダイバーシティを力に変える」というテーマを置いています。しかし、その難しさと乗り越え方は、まさにここにあると思いました。安易に共通項をつくるのではなく、互いの違いを明確に理解し合う。違いがあることを認識することで、何かを突破できる。そこに力が生まれるのだと思います。

3 「とにかくやる」 実証実験から方法論にたどり着き、キーマンを動かす
課題を見つけ、仮説を立てたら、机上で完成度を高め続けるのではなく、小さく実証する。狙いと結果が一致しなければ、「課題設定が違ったのか」「実行方法が違ったのか」を検証し、次の行動を変える。「実証実験」という位置づけは、失敗の心理的・政治的コストを下げ、試行錯誤を続けるための装置にもなった。
一方、現場のメンバーが行動を起こすだけでは、すぐに会社は変わらない。権限や影響力を持つ人に働きかけ、意思決定につなげていく必要がある。そこで2024年度には、期間内に実証実験を完了させることだけをゴールにせず、課題と検証結果を社内のキーマンに引き継ぐことを成果として位置づけた。
問いを立て、真の課題を捉え、実証実験で検証し、キーマンを動かして、制度や業務、意思決定へつなげる。この一連の流れが、5年間を通じて確立された「変革の型」である。
大澤:
「当たり前をぶっ壊せ」で教えてもらったこのステップが、私たちが変革のためのアクションを起こす一つの型につながっている。この5年間の取り組みを通して、私はそれをはっきり自覚できたと思います。
今後、その型のすべてを一つのパッケージとして実践する方法もあるでしょうし、基本スキルや実証実験など、一つひとつを取り出して活用し、展開していくこともできると考えています。

佐々木:
大澤さんが言語化してくださったことは、まさに私たちが変革支援で大切にしてきたステップです。私たちが答えをお渡しするのではなく、皆さん自身に考え抜き、行動していただく。ただ、実践してみると、一つひとつが簡単ではありません。私たちも毎年、皆さんの状態を見ながら、投げかける問いやインプット、壁打ちの仕方を変えてきました。研修だけでも、コンサルティングだけでもなく、変革の実現性を高めることにコミットして伴走しています。
組織文化変革の核心は、「なぜ」を問える組織づくり
5年間を振り返り、大澤氏がさらなる注力点として挙げたのは、「なぜ」を追求し、自ら問いを立てる力だった。
大澤:
会社では、まず仕事のやり方、HOWを覚えることから始まります。慣れてくると「自分なりのやり方を工夫してみなさい」と言われる。それもHOWです。次に「何をやるべきか考えなさい」と言われ、WHATを考えるようになる。でも、そこで止まってしまう。「なぜ、それをやるのか」ということは、誰も問いません。
正解を出すことが評価につながる文化の中では、WHYを問うことは遠回りで、面倒な行為と捉えられやすい。しかし、絶対的な正解がない中で、自分たちにとっての最適解を探るには、HOWやWHATだけでなく、「何のために行うのか」を問い直さなければならない。
大澤:
若い社員が「私は課題すら、これまで上司から与えられていました」と言ったことがあります。なかなか核心を突いた表現だと思いました。
例えば、「売上を伸ばすために、この企業を攻略してこい」と言われれば、攻略する企業も、何を伸ばすかも、すでに決まっています。そこまで決まったうえで「あなたはどうするのか」と問われるわけです。日常業務では必要なことですが、それだけを追求しても、変革にはたどりつけません。変革に真正面から取り組むには、「なぜ」の追求が必要です。
一方で、自律的なチャレンジが称賛され、認められる場面も、社内のさまざまな場所で生まれ始めている。参加者への調査では、参加前後で「組織の壁を越えて協力している」「失敗を恐れず変革へのチャレンジに積極的に取り組んでいる」「昔からの慣例などが適時見直されている」といった項目に、特に大きな伸びが見られた。変化の兆しは、組織の中に広がっている。
これからの「選択と集中」 構造改革へ
佐々木:
「当たり前をぶっ壊せ」は5年で一区切りとなり、ここからは、この取り組みで培った型をどう広げていくか、というフェーズに入られると思います。この先、ハウス食品グループとして、どのような変革に取り組んでいかれるのでしょうか。

大澤:
「選択と集中」から「変革」へという形で取り組みを進めてきましたが、次のステップとして、改めてもう一度「選択と集中」をテーマ化しなければいけないのではないか、というのが今の私たちの問題意識です。
ここでいう選択と集中は、単にコア事業へ戻る、事業を絞るという話ではない。社内では「構造改革」という言葉で語られている。収益、組織構造、資本配分など、あらゆる面で構造を変えなければ、現在の環境変化には対応できないという危機感がある。
背景にあるのは、AI・DXや危機対応、デフレからインフレへの移行など、事業環境そのものの構造変化だ。現在のインフレは、必ずしも市場の拡大を伴わない。単価が上がっても販売数量が減れば、製造設備を抱えるメーカーとしては稼働率を維持できない。一方で、付加価値の高い商品を提供するとともに、日常食を担う企業として幅広い生活者に食を届け続ける使命もある。

大澤:
そうした課題認識の中で、これまでの事業構造をもう一度すべて見直し、「構造改革」という言葉のもとでつくり変えていかなければいけないと思っています。口で言うほど単純な話ではありませんが、変えていかなければならない。
現時点で表明しているのは、私たちが最も技術や経験を積み重ねてきたのは、やはりスパイスとカレーだ、ということです。改めてそこに集中し、培ってきた技術を生かして、もう一度成長戦略を描けるかどうか。従来とは違う意味でのポートフォリオや、選択と集中を行わなければいけないというのが一つです。
私が言う構造改革とは、目的そのものを変えることではありません。理念や事業の目標を、経営計画で成し遂げるための方法や構造を変えていくということです。どのような構造改革を進めるのかが、経営のテーマとして突きつけられています。
一方で、「当たり前をぶっ壊せ」で学んだように、自分の行動を無意識のうちに制限している条件は何か、それを取り払うことでアクションを変えられないか、という考え方もあります。これは今、社内で取り組んでいるアンコンシャス・バイアスのテーマにもつながっていくのではないかと感じています。
変革のパートナーに求めるもの
こうした変革を進め、実装していくうえで、外部パートナーには何を求めるのか。最後に、大澤氏に尋ねた。
大澤:
プロが持っている情報とスキル、対応方法のバリエーションを勉強させていただきたい。結局、人は教えられたようにしか教えられません。閉じた世界の中では、それが伝承になっていく。だからこそ、別の視点や、他社・他業種の成功事例を示していただくことが必要なんです。そうした気づきがなければ、自分たちの中だけで同じことを繰り返してしまいます。
これからも様々な取り組みを提案していただけるとありがたいと思っています。
佐々木:
ありがとうございます。私たちも多様性の一角を担わせていただくということですね。ぜひそうありたいと思っています。
私たちが大切にしているのは、他社の事例や方法論をそのまま持ち込むことではありません。まだ曖昧な問題意識を、変革の問いと、実行できるテーマに変えていくことです。
企業ごとに歴史も事業も風土も違います。その企業に合った進め方を一緒につくり、現場の行動と経営の意思決定・組織構造までがつながるよう、ご支援させていただければと思います。

むすび 「変革」への伴走とは
5年前、大澤氏の手元にあったのは、明確な設計図ではなく、「変えなければ」という危機感だった。
そこから「当たり前をぶっ壊せ」という言葉を起点に問いを立て、実証実験を重ね、行動し、キーマンを動かす。その一連のプロセスは、経営者自身が「基本の型」と呼ぶまでに育っていった。組織が自ら変わり続ける力を培ってきた記録とも言える。
変革とは、自ら問い、行動し、変わり続ける力を組織の中に育てていくこと。ハウス食品グループの5年間の実践は、その本質をはっきりと示している。