【企業事例】従業員コミュニティが主導する介護を語れる職場と「心理的安全性」の土壌づくり アドビ株式会社様

アドビ株式会社
Women at Adobe コミュニティリード 礒貝美希 様
子育て支援の充実に比べ、企業にとって「見えにくいリスク」として潜みがちな仕事と介護の両立課題。社内アンケートに介護の声が上がってこないことは、必ずしも課題がないことを意味しません。アドビ株式会社では、従業員主導のコミュニティ『Women at Adobe』が主体となり、このテーマに向き合いました。ランチタイムの1時間、単発のセミナーから始まった取り組みが、組織にどのような変化をもたらしたのか同社のDE&Iコミュニティをリードする礒貝様にお話を伺いました。
育児の陰に隠れた「介護」という見えないリスクが外部セッションで顕在化
―今回「仕事と介護の両立」というテーマに着目された背景から教えてください。
私たちが運営する『Women at Adobe』では、女性の活躍支援を切り口に、一人ひとりが自分らしさを発揮できる組織づくりを目指して活動しています。社内アンケートでは「キャリア開発」や「ワークライフバランス(子育てとの両立)」「女性のヘルスケア」への高いニーズが寄せられていましたが、その段階では「介護」に関する声は表面化していませんでした。
―アンケート結果だけを見ていると、介護の課題は「まだない」ように見えてしまうのですね。
そうなんです。介護はプライベートな領域であり、「職場で積極的に話すことではない」という雰囲気が無意識のうちにあったのだと思います。
ですが、外部との共同ランチセッションをきっかけに「実は親が遠方に住んでいてリモートワークに悩んでいる」「すでに介護に直面している」といった切実な声が上がり始めました。さらにメンバーと話す中で「親が突然転倒・入院し、備えの必要性を痛感した」というケースも出てきて、「困りごとが積極的に共有されていないからといって、課題がないわけではない。見えないリスクがある」と危機感を持ったのが始まりでした。
ビジネス現場への深い理解と、1時間に凝縮する柔軟性が決め手
―そこで、介護の課題を取り上げるにあたり、チェンジウェーブグループを選んでくださった理由を教えてください。
社内で介護の専門家を模索する中、酒井さん(チェンジウェーブグループ取締役)の書籍『ビジネスケアラー』に出会いました。講師の方々が単なる介護の専門家ではなく、ビジネスの現場や企業の論理をよく理解されていると強く感じたことが大きな決め手です。
単なる知識のインプットではなく、「組織としてしっかり学び、ビジネスパーソンとしてのキャリアも諦めない」ことにフォーカスしたかった私たちにとって、ビジネス視点に寄り添ったプログラムは非常に心強かったです。
また、忙しい方も参加しやすいよう「ランチタイムの1時間(Lunch&Learn)」での実施を希望していました。本来なら1〜2日かけて学ぶようなテーマを1時間に凝縮してほしいというお願いに対しても、私たちの意図や社内カルチャーを深く汲み取って柔軟にカスタマイズしてくださり、本当に感謝しています。
潜在的なニーズが浮かび上がり、自然な共感からセミナー参加へ
―全社にセミナー案内を出した際、参加者の反応や手応えはいかがでしたか?
特別な個別アプローチやプッシュをしたわけではなく、通常通り全社員向けのメールで告知を出しました。すると、当事者はもちろん、性別や部署に関わらず100名以上から参加の意思表示があり、当日もオンライン・オフライン合わせて約70名が集まってくれました。受講後のアンケートでは、ありがたいことに全員から5つ星の満点評価をいただきました。
コミュニティで運営している社内セッションで全員が最高評価をつけてくださったのは、私自身も初めての経験でした。
―どのような層の方が参加されていたのでしょうか。
実際に介護をしている「当事者」は全体の1〜2割ほどで、残り8割近くは「将来の親や自分のために備えたい」という未当事者でした。
―弊社の調査データでも、介護前の人の方が不安を感じていると出ています。介護は、不安に思っていても、実際セミナーの場に参加するといった行動に結びつくことが難しいです。今回、未当事者の方にも、なぜ幅広く「自分事」として届いたと思われますか?
普段から私自身が「介護当事者であること」を自然に自己開示していた背景があります。私の話を聞いた同僚たちが「実は私も当事者である」「介護をした経験があり苦労した」と打ち明けてくれるようになり、潜在ニーズの存在を実感していました。そこに「ビジネスパーソンとして必要な知識を学ぶ」という実用的なテーマで案内を出したことで、「知っておくべき知識だ」と多くの方が自然と共感してくれたのだと思います。
―受講後、社員の方からはどのような声が寄せられましたか?
印象的だったのは、「漠然とした不安や、家族だからやらねばという無意識の重圧に対して、解決策が見えた」という声です。また「地域包括支援センターの存在と重要性を知ることができ、不安が軽くなった」「知っているか知らないかで負担が大きく変わると分かった。決して遠くない、現実的な問題だと感じた」といった感想も多く届きました。
当日は講師の服部さんの実体験に基づく血の通った言葉が印象的で、多忙な営業部門の社員も最前列で熱心に頷きながら聞き入っていました。特定の講師の方一人だけに依存するのではなく、会社全体として体系的なプログラムを持ち多角的に対応していただける点も、チェンジウェーブグループならではの大きな安心感につながりました。
日常会話に溶け込む「心理的安全性」と、従業員が自走できる組織文化
―セミナー実施後、組織の雰囲気やコミュニケーションにはどのような変化がありましたか?
一番の変化は、コミュニケーションの質です。これまで隠されがちだった介護の話題が、上司との1on1や日常の立ち話の中で、子育ての話と同じようにオープンに話されるようになってきていると感じます。悩みや不安を一人で抱え込まずに共有できる「心理的安全性」の土壌を、少しずつでも強固に組織の中に育めた実感があります。
介護は「話題にすること」自体のハードルが高いテーマです。まずそこを越えて、日常の会話に自然と溶け込むようになった。この一歩そのものが、私たちにとって何より大きな成果だと感じています。
―どうやって仕事と介護の両立支援テーマの従業員主導のコミュニティを立ち上げるのか、というお悩みを両立担当者からお伺いすることがあります。アドビ様で熱量ある活動が生まれる理由は何でしょうか?
アドビには、多様な背景を持つ一人ひとりが活躍できる環境づくりを重視する文化が根づいていると感じています。属性で特別扱いするのではなくフェアに評価する一方で、「一人ひとりが最高のパフォーマンスを出すためのDEI支援(環境づくり)は惜しまない」という姿勢を会社トップが明確に発信し、ボランティア組織を全面的に信頼して任せてくれています。
私自身も「会社からしっかりと後押しされてきた」という実体験があり、現在、コミュニティのリードに力を注ぐことにつながっています。今度は「周囲の仲間に還元したい」という従業員側の主体的なエネルギーにつながり、自走できる強固な土壌になっているのだと感じます。
ライフステージの変化に寄り添い、パフォーマンスを発揮し続けられる組織へ
―最後に、今後の展望とこれから両立支援に取り組む企業へのメッセージをお願いします。
介護やライフステージの環境は刻一刻と変化するため、今回の取り組みを単発で終わらせず、定期的に繰り返し学びの場を提供していくことが大切だと考えています。
DE&Iの推進や両立支援は単なる福利厚生にとどまらず、プライベートの不安を解消して安心して働ける環境を整えることであり、本質的なエンゲージメント向上と最高のパフォーマンス発揮に直結しています。
世の中のビジネスパーソンは、まだまだ介護に関する知識が不足しています。誰にいつ訪れるか分からないからこそ、制度を使う前の「前段階の知識」を備えておくことが組織の強みになります。まだ取り組んでいない企業様も、まずはスモールスタートからでも一歩を踏み出すことをお勧めしたいです。
個人のリアルな課題に寄り添い、組織全体の強さへと変えていく素晴らしい取り組みをお聞かせいただき、ありがとうございました
チェンジウェーブグループでは、仕事と介護の両立支援における各種施策の立案から実行まで、継続的なご支援・伴走を行っております。
「自社に合った具体的な進め方を知りたい」「施策を形骸化させず定着させたい」といった課題がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。