女性管理職が増えない理由は「候補者不足」ではなく「機会の偏り」。登用を進める4つのポイント

女性管理職の登用は、多くの企業で経営課題として掲げられるようになりました。意思決定層が多様になれば、イノベーションの創出をはじめ、異なる立場からの市場把握、多角的な視点による経営リスクの検証などが進みやすくなります。これまで見過ごされてきた課題が議論の場に上がり、組織の前提そのものを問い直すきっかけにもなります。その意義は大きいものの、課長、部長、役員への女性登用が思うように進まないという声は、今も少なくありません。
研修でアンコンシャス・バイアス(無意識の偏り)に気づき、制度を整え、数値目標も掲げた。それでも登用の場面になると「候補者がいない」「スキルが足りない」という言葉が出てくる。偏りに気づくことと、登用という結果の間には、まだ距離があります。
本コラムでは、管理職566人のデータから見えてきた女性登用までの道筋と、登用を進めるためのポイントをお伝えしたいと思います。
「候補者がいない」は偏りの積み重ね
女性幹部の育成に取り組む企業のマネジメント層から、「もう少し育成してからでないと、経営幹部としてアサインできない」という声を聞くことがあります。しかしその一方で、育成プログラムに参加された候補者と実際に向き合うと、期待や挑戦の機会を得ることで、驚くほど大きく成長する方は少なくありません。17年にわたり経営人材の育成に携わってきた当社の実感として、ポテンシャルのある人材が女性にだけ少ないとは考えられません。
では、どこで差がつくのでしょうか。女性の上位層がコーポレート部門に偏り、事業ラインには少ないという状況の背景にも、それまでにどのような仕事を経験してきたかが関わっています。
幹部登用までには、情報提供 → 経験 → 重要業務へのアサイン → 登用 という段階があります。
誰が日常の会話から情報を得て、重要な会議で発言し、挑戦的な仕事や修羅場経験を任されるのか。重要顧客の担当や事業計画の数値・戦略を誰に任せるのか。個々の判断は小さくても、積み重なれば将来の候補者層に大きな違いが生まれます。登用の段階で候補者を公平に選ぼうとしても、選択肢が限られてしまうのは当然の結果です。さらに、これまで「ふさわしい人材」を判断してきた人材要件や評価基準そのものも、これからの事業に照らして問い直す必要があります。

データが示す、女性管理職登用の「ゴールデンパス」
当社の組織診断サーベイ「ANGLE Plus」を使って、複数企業の管理職566人に自部門の男女構成、会議での発言、雑談相手、仕事の任せ方、フィードバック、両立支援の状況などを尋ね、回答を分析しました
一般社員の女性比率が高い部門ほど、女性課長の比率も高い傾向があります。しかし、同程度の女性比率であっても、女性課長の登用が進んでいる部門とそうでない部門がありました。そこには、環境要因だけでは説明しきれない、日常のコミュニケーションと機会提供の違いが見えてきます。
分析モデルで一連のつながりの起点に位置していたのは、意外にも「雑談」でした。上司が雑談する相手の男女比がフラットであるほど、会議での発言もフラットになり(係数0.60)、意思決定の前に意見を求める相手もフラットになる(0.67)。さらに重要顧客の担当経験は、数値・戦略を取りまとめる役割へのアサインと強く結びついていました(0.57)。

(出典:チェンジウェーブグループ「ANGLE Plus」により調査・分析、n=566。係数は0.2以上で強い影響、0.1以上で有意な影響を示す)
雑談は、単に人間関係を円滑にするためだけのものではありません。業務の背景や本人の考え方に触れる機会となり、会議での発言、上司からの意見聴取、重要な仕事への抜擢へとつながる可能性があります。これまで職場内では経験的に理解されてきたことが、データからも見えています。
課長に続いて、部長以上への登用につながる要素を見てみます。分析モデルには、ホットジョブへのアサインから、出向・出張や選抜研修、重要会議への出席、経営層や社内での人脈形成へとつながるパスが示されています。課長登用で見えてきた日常の接点に加え、事業の中核を担う経験や経営との接点が、部長登用を考えるうえで重要な論点となります。

女性登用を進める4つのポイント
ポイント1 雑談や対話の機会をフラットにする
管理職自身が日常的に話しているのは誰か。仕事の相談だけでなく、気軽な雑談や「ちょっと聞きたい」という会話の相手まで振り返ると、無意識の偏りが見つかることがあります。
リモートワークで偶発的な会話が減っているなら、あえて議題を決めない対話の時間を設けるのも一案です。重要なのは、雑談の回数を増やすこと自体ではなく、情報や意見を交わす接点が一部の人に集中しないようにすることです。
ポイント2 「配慮」の前に本人と話す
雑談の頻度は、もう一つのルートにも影響していました。両立支援のスタイルです。上司が女性部下とよく雑談している部門ほど、キャリアの水準を下げずに両立を支援する管理職が多い、という因果が出ています(係数0.19)。そしてこの支援のスタイルが、重要顧客の担当というアサインにつながっていました(0.17)。
話す機会が少ないと、「お子さんがいるから、この仕事は負担かもしれない」と、本人の希望を聞かないまま配慮してしまいがちです。よかれと思った配慮が、結果として機会を減らすことになります。
雑談が多ければ、本人がどうしたいのかをまず話せます。仕事量の調整もしやすく、必要なら説得もしやすい。管理職になることへの不安があれば、何を取り除けばよいかを一緒に考えられます。**配慮の前に、本人の意思を聞く。**それだけで、両立とキャリアの両方を支える選択肢が広がります。
ポイント3 ホットジョブをフラットに配る
経営幹部の手前にある、難度が高く重要な仕事、いわゆるホットジョブは枠が限られています。ただ、若いうちに任される重要な仕事の多くは、それほど特殊なスキルを求めるものではありません。例えば営業で、チームの収益の大きな割合を占める大口顧客を担当するか、中堅の顧客を担当するかに、決定的なスキルの差が必要なわけではないはずです。
同じ経験レベルの2人のどちらかに「少し任せて育ててみよう」と考えるとき、無意識に男性を選ぶ、あるいは特定の年齢層の人を選ぶ、ということは起こりえます。アサインの前に一度立ち止まり、実力とファクトでフラットに考えることが重要です。
課長から部長への登用でも、ホットジョブは分岐点になります。部長以上の女性比率に至る道筋を分析すると、ホットジョブへのアサインから、経験値が上がる出向・出張や選抜研修、重要会議への出席、経営層や社内での人脈づくりへとつながっていました。

ポイント4 小さく始め、成功体験をつくる
構造の課題がわかっても、業務プロセスやオペレーションを全面的に変えるのは簡単ではありません。判断材料が足りない割に工数が大きく、多くの関係者の納得も要るため、トップダウンで相応の予算とリソースを投じない限り進みにくいものです。全社に一斉に通知を出して変えるのも大がかりです。
そこで有効なのが、変えたいと最も強く思っている人が、自分の部署やチームだけで1か月試してみるといった小さな実証です。対象は10人程度でも構いません。成果が出れば目に見えるので自然に広がりやすく、上に提案するのも容易になります。役職のない20代後半の営業職5人が始めた実験が、全社展開の人事施策になった例もあります【なりきりん事例】。仲間を巻き込み、応援してくれる上位者をスポンサーにつけることは、どの階層に上がっても求められるリーダーシップそのものです。
管理職への打診を断られる、という悩みも同じ構造で捉えられます。管理職の一歩手前が最も迷いやすいものの、やってみて「意外とできる」と感じた人の多くは、その後力強く進んでいきます。自信は、経験のあとについてきます。
手前味噌で恐縮ですが、当社チェンジウェーブグループの経営幹部育成プログラム「GET」では、意欲を高める機会と、経営を構想する力を鍛える機会を同時に提供しています。2025年度の受講生の自己評価(5段階)では、参加前後で「枠を壊してやってみようとする挑戦力」が2.63から4.13に、「素直に周囲から学び、試行錯誤から進化する力」が3.11から4.38に伸びました。機会があれば、短い期間でも挑戦への構えは変わっていきます。
【図:p.12「意欲醸成×経営構想力の機会があれば短期でも『コミット力』『胆力』が格段に向上する」】
多様な問いを持てる組織へ
女性が管理職になることに迷う構造は、男性が長期の育休や時短勤務を選ぶことに迷う構造と、鏡写しの関係にあります。男性には「あの人ができるなら」と思えるロールモデルが多く、情報の透明性も高い。一方で、家庭を優先する働き方を選んだ男性のロールモデルはまだ少数です。ある地方企業の全社アンケートでは、若手や、介護に向き合う40代の男性から「今の働き方では続けていける気がしない」という声が多く寄せられました。経営幹部育成の場でも、将来を期待される男性から「今の経営者のような働き方はしたくない」という声は、もはや多数派です。女性も男性も、長時間労働を前提とした同じ構造に悩んでいます。
その先にあるのは、一人ひとりが働き方を選べる組織です。さまざまな業界の営業管理職約200人へのアンケートでは【要確認:調査名・実施年・人数】、チームの業績とエンゲージメントがともに高いマネジャーに強く共通していたのは、メンバーに自分のスタイルで営業させていること、時間の使い方を本人に任せていることの2つでした。働き方を本人の判断に委ねる方向へ、経営チーム全体でかじを切ろうとする伝統的な企業も出てきています。同じ人でも、転職して環境が変われば、まったく違うふるまいをするものです。環境が規範をつくります。
AIの普及も、前提を大きく変えつつあります。データと情報を入れれば答えが出てくる時代には、AIにどんな問いを投げるかで結果が変わります。問いの角度や精度は、その人が何を見聞きし、どんな問題意識を持ってきたかで決まります。同じような人が同じような問いを投げても、同じ答えしか返ってきません。問いを立てる人が多様であることの価値は、これからさらに大きくなります。
女性登用を阻んでいるのは、能力の差ではなく機会の偏りです。雑談、配慮、アサイン。日々の小さな場面の偏りを一つずつ外していくことが、多様な意思決定層をつくる確かな道筋になります。
出典
- チェンジウェーブグループ「ANGLE Plus」による調査・分析(n=566)
- チェンジウェーブグループ「GET」受講生の自己評価、参加前後比較(2025年度実績)
- 営業管理職約200人へのアンケート【要確認:調査名・実施年】
ご案内
チェンジウェーブグループは17年にわたり、企業の変革と経営人材の育成に伴走してきました。支援した経営幹部は500名以上、変革リーダーは2,000名以上、アンコンシャス・バイアスに関するプログラムの受講者は10万人を超えます。組織診断「ANGLE Plus」による登用の道筋と部門ごとの課題の可視化から、管理職向けのDEI研修、女性幹部の育成・登用まで、現状・課題感・時間軸に合わせてご提案し、実行をご支援しています。 女性管理職比率の目標に対して打ち手が見えない、研修はしたが登用につながっていない、どの部門のどの段階で詰まっているかを知りたい。そうした段階ごとの課題について、まずは現状をお聞かせください。
女性登用・アンコンシャス・バイアスに関するご相談・お問い合わせ
監修者
株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長 CEO 佐々木 裕子
日本銀行を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーで同社アソシエイトパートナーを務める。2009年株式会社チェンジウェーブを立ち上げ、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。変革実現のサポートや変革リーダー育成、個人や組織、社会変革を担いつつ、複数大手企業のダイバーシティ推進委員会有識者委員にも就任。 ソフトバンク株式会社 社外取締役、三井住友DSアセットマネジメント株式会社 社外取締役、一般社団法人人的資本経営推進協会 代表理事。著書に『実践型クリティカルシンキング』『21世紀を生き抜く3+1の力』。
3. 確認リスト
本文中の【要確認】
| 箇所 | 内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| ゴールデンパス章「65問ほど」 | 設問数は文字起こし(「65」)とNewsPicks記事(「65問ほど」)のみ。資料に記載なし | ANGLE Plus担当 |
| ポイント4「20代後半の営業職5人」 | 「5人」は資料p.3の写真内の記事タイトル、「20代後半・営業」は文字起こし。クライアント事例のため公開可否を確認。「1年後に全社導入」は聞き取りが不明瞭なため不使用 | 佐々木さん/担当コンサル |
| 結び「営業管理職約200人」 | 数値・調査概要とも文字起こしのみ(「エイカレで…200人ぐらい」)。実施年、調査名、相関の出た2項目の正式名を確認 | エイカレ運営(清水さん) |
書き方で判断した点
- 「共分散解析」は手法名の正確な表記が確認できないため、「統計解析」「因果の向き」と書くにとどめた
- 文字起こしの「1000人ぐらいいたとして」は仮定の話と判断し、資料のn=566を使用
- p.9の「ホットジョブ労働時間」(0.128)は意味が文脈から確定できないため、数値・項目とも本文で使わず、流れ(ホットジョブ→出向・出張/選抜研修→重要会議→人脈)だけを記載
- p.9・p.10の各係数、p.11(逆算・意欲向上×経営構想力・OJT/Off JT)は文字起こしで語られていないため本文では使わず
- GETの数値は資料p.12(2025年度実績)を使用。基準記事(第1期・第3期、挑戦力2.54→3.68)とは別データなので、混同に注意
- ご案内の「変革リーダー2,000名以上」は資料p.3の表記に合わせた(基準記事では「女性リーダー2,000名以上」)。どちらが正しいか確認推奨
- 監修者プロフィールは公開済み基準記事のものをそのまま使用
- 話し手個人の体験談(経営者になった経緯、マッキンゼー時代の土曜ワークショップの話、娘さんとAIの話)、聞き手の子育てエピソードは不使用
- 「女性の上位層はコーポレートスタッフに集まり、事業ラインには少ない」は文字起こし(聞き取り不明瞭あり)とNewsPicks記事の両方で確認できたため使用
伏せた社名・公開可否の確認
- リクルート(「よもやま」の回数をKPIに)→「企業もあります」に匿名化。「よもやま」という語で推測可能なので、社名を出す/語を変えるかを判断ください
- キリン(なりキリンママ)→匿名化。「当たり前を壊すプロジェクト」と並べると推測されうる
- 製薬会社・大病院の本部長の事例→業種と「大病院」を削り「大きな顧客が一つ」に
- 外資企業のAIによるバイアス検知・昇給プールの事例→聞き取り不明瞭な部分が多く、記事の核にも直結しないため不使用
- 地方企業の全社アンケート(Speaker 4の発言)→「ある地方企業」のまま。社名特定の手がかりなし
話し手に確認すべき点
- 「ハイポテンシャル人材は男女ほぼ同じ割合で存在する」は資料p.5の経験則。断定の強さはこのままでよいか
- 雑談→両立支援スタイルの因果を「はっきり出ている」と書いた(係数0.19/0.17は「有意な影響」の水準)。表現の強さを確認
- NewsPicks記事と同じ素材のため、ポイント3の本部長の相談、会食・ゴルフのたとえなど一部エピソードが重複。公開時期や重複の許容範囲を確認
監修者
株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長 CEO
佐々木 裕子
日本銀行を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーで同社アソシエイトパートナーを務める。2009年株式会社チェンジウェーブを立ち上げ、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。変革実現のサポートや変革リーダー育成、個人や組織、社会変革を担いつつ、複数大手企業のダイバーシティ推進委員会有識者委員にも就任。
ソフトバンク株式会社 社外取締役、三井住友DSアセットマネジメント株式会社 社外取締役、一般社団法人人的資本経営推進協会 代表理事。著書に『実践型クリティカルシンキング』『21世紀を生き抜く3+1の力』。