女性管理職の育成ガイド|明日から使える戦略立案と実践ロードマップ

企業の持続的成長に向けて、多様な人材の活躍は不可欠な経営課題です。特に、女性管理職の登用は多くの企業が直面する重要なテーマではないでしょうか。
「何から着手すべきか苦慮している」「施策が期待した成果に繋がらない」といった悩みを抱える人事・経営企画のご担当者様も少なくありません。
本記事では、女性管理職の登用が進まない根本原因を多角的に分析します。そのうえで、明日から実践できる具体的な育成ロードマップを、成功企業の事例を交えながら提示します。
女性管理職の育成が経営課題になっている理由

なぜ今、これほどまでに女性管理職の育成が重要視されているのでしょうか。それは努力目標などではなく、市場からの要請や競争環境が背景にあるからです。
企業の持続的成長のためには、避けては通れない経営課題として認識する必要があります。
女性活躍推進法と政府目標
日本政府は、女性の活躍を国家戦略の重要な柱と位置づけています。その中核となるのが、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」です。
この法律は、企業に対して女性活躍に関する課題分析や行動計画の策定・公表を義務付けています。特に注目すべきは、法改正による公表義務の拡大です。
これにより、企業の取り組みは外部から客観的な数値で評価される時代になりました。投資家や求職者からの信頼獲得において、女性活躍への姿勢が直接的な影響を与えることを意味します。
さらに、政府は「女性版骨太の方針」において、以下のような具体的な数値目標を策定しています。
- 2030年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする
- プライム市場上場企業は2030年までに女性役員比率を30%以上にすることを目指す
プライム市場上場企業に対しては、より高い水準での取り組みが求められており、社会全体の期待値が高まっていることがわかります。
参考:e-Gov法令検索「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」
参考:日本学術会議「日本学術会議における男女共同参画の取り組み」
参考:男女共同参画局「1上場企業における女性役員の状況」
世界から取り残される深刻な男女格差
日本の女性管理職比率は、国際的に見て極めて低い水準にあるのが現状です。政府目標である30%には、依然として大きな隔たりがあります。
世界経済フォーラム(WEF)は、各国の統計データをもとに男女間の格差を分析したグローバル・ジェンダーギャップ・レポートの2025年版を公表しました。
この報告によると、日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位で、前年と同じ順位にとどまりました。特に、政治や経済の分野で男女差の改善が進んでいない状況が続いています。
また、報告書では、現在の改善ペースのままでは、世界全体で男女が平等な状態(ジェンダーパリティ)に到達するまでに約123年かかると試算されています。依然として大きな課題が残されています。
参考:朝日新聞SDGs ACTION!「【ジェンダーギャップ指数】日本、2025年は世界118位で前年と同じ 政治分野は後退」
女性管理職が育たない根本原因

女性管理職がなかなか増えない背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。原因を正しく理解し、一つひとつに対して的確なアプローチを行うことが、問題解決の鍵です。
本章では、主な原因を3つの側面に分けて解説します。
【原因1】長時間労働文化とロールモデル不足
日本企業に根強く残る長時間労働を前提とした働き方は、大きな障壁の一つです。特に管理職には、メンバーよりも長く働くべき、何かあったら必ず対応しなくてはならない、というプレッシャーがかかりがちです。
この文化は、育児や介護など家庭との両立を目指す社員にとって、管理職への道を躊躇させる大きな要因と言えます。
さらに、男女問わずではありますが、社内にプライベートと仕事を上手に両立している管理職が少ない、いても見えていない、ということが若手社員の意欲に影響を及ぼします。身近に目標となる存在がいなければ、自身の将来的なキャリアパスを具体的に描きにくくなります。
【原因2】アンコンシャス・バイアスとキャリアパスの壁
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)も、女性の昇進を妨げる深刻な問題です。
評価者自身が気づかないうちに、「管理職は男性の仕事」「女性はサポート役が向いている」「家庭や育児と両立している女性にハードな仕事を任せるのは難しい」といった固定観念に基づいて判断を下してしまうことがあります。同時に、女性社員自身がこうしたバイアスを内面化し、自らキャリアを抑制する「心理的障壁」を生み出してしまう点も無視できません。
こうしたバイアスが影響し、昇進に直結する重要なプロジェクトや海外赴任の機会が、無意識のうちに男性社員に偏るケースも見られます。
これにより、女性社員が経験を積んで成長する機会が失われ、キャリアパスが閉ざされてしまいます。
【原因3】育成機会の提供と成長支援への理解不足
管理職候補となる女性社員に対する、体系的な育成プログラムが不足している企業も少なくありません。バイアスの影響により、リーダーシップやマネジメントスキルを学ぶ機会が構造的に少ない場合、自信を持って管理職に挑戦することは困難です。
経験豊富な上司や役員がサポートするメンター制度の欠如も、成長機会の損失につながります。非公式な雑談も含め、経営や今後のキャリアにつながる情報を得る機会は、管理職の業務を具体的にイメージできるかどうかに影響してきます。
管理職や経営層のリアルな姿に触れる機会が少ないと、そのやりがいを知ることもできません。また、「男女問わず、皆、初めから自信を持って管理職になったわけではない」という気づきも得られません。
女性管理職の育成がもたらす経営へのメリット

女性管理職の育成は、単なる義務やコストではありません。企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するための戦略的投資です。
多様な視点を採り入れることで、組織には多くの具体的なメリットがもたらされます。
| メリットの分類 | 具体的な効果 |
|---|---|
| イノベーションの創出 | 多様な視点や価値観が意思決定に反映され、新たな商品やサービスの開発につながる。 顧客層の多様化に対応しやすくなり、市場での競争力が向上する。 |
| 組織の活性化 | 女性社員のキャリア目標が明確になり、モチベーションとエンゲージメントが向上する。 ロールモデルの存在が、後に続く世代の育成を促進する好循環を生む。 |
| 企業価値の向上 | 投資家からESG(環境・社会・ガバナンス)評価が高まり、資金調達が有利になる。 企業の社会的評価が向上し、ブランドイメージと顧客からの信頼が向上する。 |
| 人材獲得と定着 | 多様な働き方を許容する企業文化が、優秀な人材にとって魅力的になる。 社員の定着率が向上し、採用・育成コストの削減につながる。 |
女性管理職を育成する具体的施策

女性管理職の育成を成功させるためには、包括的かつ戦略的なアプローチが必要です。制度や意識、育成の3つの側面から、具体的な施策を体系的に進めていくことが重要です。
1.経営層のコミットメント
すべての施策の土台となるのが、経営トップの強い意志です。経営層が女性活躍推進の重要性を自らの言葉で、繰り返し社内外に発信することが不可欠です。
女性活躍推進は女性のためだけのものではなく、多様な人材が活躍するための第1歩です。なぜ女性管理職の育成が必要なのかというビジョンを明確に示し、社員の理解と協力を求めましょう。
- 全社会議や社内報で社長・役員から女性活躍推進に関するメッセージを発信する
- 具体的な数値目標(例:3年後に女性管理職比率を15%にするなど)を設定し、公表する
- 経営会議のアジェンダに女性活躍推進の進捗確認を定期的に組み込む
2.公平な評価・登用制度の確立と運用
制度を整えるだけでは不十分です。公平に運用されてこそ、初めて社員の信頼を得られます。
評価基準を明確にし、評価者が無意識のバイアスに左右されずに判断できる仕組みを構築することが求められます。
| 施策のポイント | 具体的なアクション例 |
|---|---|
| 評価基準の明確化 | 等級ごとの役割・責任・求められる能力を言語化し、全社員に公開する。 成果だけでなく、プロセスや挑戦も評価する項目を導入する。 |
| 評価プロセスの透明化 | 評価者と被評価者による1on1ミーティングを定期的に実施する。 評価結果のフィードバックを義務化し、次の成長につなげる。 |
| 評価者のトレーニング | 全管理職を対象とした評価者研修を実施する。 特にアンコンシャスバイアス研修は必須プログラムとする。 |
3.ワークライフバランス支援の拡充
多様な人材が能力を最大限に発揮するためには、柔軟な働き方をサポートする制度が不可欠です。ライフイベント(出産、育児、介護など)によってキャリアが中断されることのないよう、安心して働ける環境を整備しましょう。
- フレックスタイム制度、リモートワーク制度の導入・拡充
- 時間単位で取得できる有給休暇制度
- 育児・介護を理由とした短時間勤務制度の利用者範囲拡大
- 男性の育児休業取得目標の設定と取得者へのインセンティブ付与
特に、男性社員の育児休業取得促進は、組織全体の意識改革につながる重要な施策です。
4.候補者パイプラインを構築する育成プログラムの実施
将来の管理職候補となる女性社員を、計画的に育成していく仕組みが必要です。同時に、候補者を育成する側の管理職の意識改革とスキルアップも欠かせません。
候補者向け:キャリア開発研修とメンター・スポンサー制度
研修を導入し、女性社員自身がキャリアについて主体的に考えて必要なスキルを習得する機会を提供します。研修内容の例は以下のとおりです。
- 自身の強みや価値観を理解する自己分析ワーク
- 中長期的なキャリアビジョンを描くプランニング研修
- ロジカルシンキング、リーダーシップ、交渉術などのビジネススキル研修
研修と並行して、経験豊富な先輩社員が個別に伴走する仕組みを導入することも効果的です。以下に、個別支援制度の例をまとめました。
- メンター制度:先輩管理職が相談役となり、キャリアの悩みや課題解決をサポートする
- スポンサー制度:役員クラスがスポンサーとなり、候補者の昇進を積極的に後押しし、チャレンジにつながる機会を提供する
管理職向け:アンコンシャス・バイアス研修と育成スキル向上
部下を育成する立場にある管理職の意識とスキルが、女性活躍推進の成否を大きく左右します。多様な部下の能力を公平に引き出し、成長を支援するためのトレーニングが不可欠です。
研修内容の例は、以下のとおりです。
- アンコンシャス・バイアスが意思決定に与える影響を学ぶ研修
- 多様な部下への効果的なフィードバックやコーチング手法
- 女性部下のキャリア開発を支援するための1on1ミーティング実践研修
【事例から学ぶ】女性管理職の育成を成功させる秘訣

すでに多くの企業が女性管理職の育成に積極的に取り組み、成果を上げています。本章では、異なる業界の3社の事例を紹介します。
各社の取り組みから、自社に応用できるヒントを見つけましょう。
三井化学株式会社
三井化学は、女性管理職の育成を目的に、アンコンシャス・バイアスに着目した体系的な施策を7年間継続して実行してきました。2016年に1.7%だった女性管理職比率は、2023年度には7%目前まで上昇しました。
背景には、データに基づき課題を可視化し、部長層を含む管理職に対してバイアス研修を実施したことがあります。登用権限を持つ層の意識改革により、これまで候補に挙がりにくかった人材にも目が向けられるようになり、メンタリング制度も導入しました。
評価・登用と研修を連動させることで、「育成すれば登用につながる」仕組みを構築しています。経営トップの継続的な発信も後押しとなり、女性管理職育成を組織全体で進める風土改革に成功した事例です。
D,E&I推進のための体系的な取り組み 〜「アンコンシャス・バイアス」をフックに〜 三井化学株式会社のデータ活用と施策立案事例
株式会社島津製作所
島津製作所は、D,E&Iのスタート地点としてジェンダー・エクイティの実現を掲げ、女性管理職の育成に多面的に取り組んでいます。過去にあった性別役割分業が影響し、女性も周囲もキャリア構築に制限をかけてしまっているのでは、という課題感があったことから、「キャリアを考える場づくり」を重視しています。具体的には、自社内で行う研修と外部に派遣する異業種交流研修を組み合わせ、視野を広げたうえで、社内のロールモデルとの座談会や上司面談・フォローアップ面談を実施しました。
2023年に実施した、「管理職一歩手前の女性」を対象にした研修では、ほぼ全員から「自分も管理職を目指そうかな」という声が聞かれ、研修の手応えを感じられたとのこと。社内の横のつながりも生まれ、心強さにつながったようです。
社内外の研修とロールモデルとの交流、上司のフォローアップを上手に組み合わせて女性の昇進意欲と管理職候補層の拡大につなげた成功事例です。
異業種プログラムと自社研修を組み合わせ女性リーダーシップ形成に高い効果 島津製作所様事例紹介
日本電気株式会社
日本電気(NECグループ)は、女性活躍を女性だけの課題にせず、I&D(Inclusion&Diversity)として組織文化を変えることで、女性管理職の育成を前進させています。管理職候補の女性には、家庭との両立やアンコンシャス・バイアスを外す研修とフィールドワークを設計し、「自分のやり方で進めば良い」という小さな一歩を生み出しました。
加えて、評価者・管理職側にはバイアス測定(可視化)と学習・ワークショップを実施し、「本人に確認せず機会を奪う」評価の癖を是正しています。評価時のセルフチェックや人事チェックも組み込み、登用・アサインの公正さを高めました。
さらに役員スポンサーシップや階層横断のネットワーキングも組み合わせ、上位職の視座に触れる機会を提供しています。多層的な施策を重ね、女性管理職候補の意欲と育成環境の両面を整えた点が成功要因です。
女性活躍は次のステージへ NECグループが挑む、インクルーシブな組織づくり
女性管理職を育成するうえで役立つサービス

弊社チェンジウェーブグループの女性管理職育成サービスは、「手が挙がらない」「研修が登用につながらない」といった企業の悩みを解決するために設計された実践型プログラムです。女性の昇進を阻む5つの壁(本人の自信不足、無意識の思い込み、制度と現場のギャップ、管理職像の固定化、ネットワーク不足)に対し、本人・上司・経営層へ多面的にアプローチします。
選抜型研修では、アンコンシャス・バイアスへの気づきや自分らしいリーダーシップの発見、視座を高める演習を通じて、挑戦への一歩を後押しします。上司巻き込みやフィールドワークなど企業課題に合わせてカスタマイズ可能。実際に管理職意欲が7%から83%へ向上した事例もあり、女性管理職候補を躊躇から挑戦へ導く有効な育成支援サービスです。
女性管理職の育成に課題を感じる場合には、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:女性管理職育成は企業の未来を創る戦略的投資

女性管理職の育成と登用は、もはや単なる努力目標ではありません。法改正への対応、グローバル競争力の強化、持続的な成長を実現するために不可欠な経営戦略です。
多様なリーダーシップは、組織に新たな視点をもたらし、イノベーションを加速させます。本記事で紹介した制度や意識、育成という側面からのアプローチは、貴社の取り組みを成功に導くための羅針盤となるはずです。
まずは、自社の現状を分析し、できそうなことから一歩を踏み出してみましょう。
監修者
Designing Your Life ジャパン 認定講師|静岡市男女共同参画審議会委員(2017~2019)
鈴木 富貴(すずき ふき)
所属:株式会社チェンジウェーブグループ 執行役員
経歴:静岡放送株式会社で報道記者・ディレクターとして勤務後、渡米。
ニューヨークの生活、教育をテーマにコンテンツ作成を行う。
帰国後はキャリア・ジャーナリストとして働き方改革、ダイバーシティ経営企業の取材・執筆を開始。社外メンタープログラムの企画・講師も務めた。
株式会社チェンジウェーブ参画後は、大手企業の組織変革、ダイバーシティ推進のアドバイザリー、人材開発に携わるほか、アンコンシャス・バイアスに関する講演、研修、商品開発や異業種プラットフォームの企画・講師を担当。